湊長博総長は国際卓越研究大学申請にかかわる懸念に誠実に応えよ! ―国際卓越研究大学にかかわる京大職組第三次声明―
↓ 250404_湊長博総長は国際卓越研究大学申請にかかわる懸念に誠実に応えよ! ―国際卓越研究大学にかかわる京大職組第三次声明―
http://files.kyodai-union.gr.jp/doc/seimei/250404_kokusaitakuetsu_seimei.pdf
2025年4月4日
湊長博総長は国際卓越研究大学申請にかかわる懸念に誠実に応えよ!
―国際卓越研究大学にかかわる京大職組第三次声明―
京都大学職員組合中央執行委員会
湊長博総長は「国際卓越研究大学申請に向けた総長メッセージ」(2024年12月23日、2025年1月31日英語字幕付きで公開)と「組織改革と職員への期待についての動画」(2025年2月13日)をそれぞれ教職員向けに公開しました。メッセージの公開に先だって教職員からの質問を受け付け、メッセージを聴き終えたあとにアンケートで意見を求めましたが、残念ながら総長メッセージの内容は国際卓越研究大学(以下、卓越大)申請にかかわる懸念を払拭するものではありませんでした。京都大学職員組合中央執行委員会はこれまで2度にわたって卓越大への申請に反対する声明(2023年10月4日、2024年10月17日)を公開してきましたが、総長メッセージはさまざまな懸念をスルーして、ただ申請・認定にともなう「メリット」として想定されることを一方的に説明しただけであるために、むしろ懸念は深まらざるをえませんでした。改めて対面式で双方向的な説明会の開催を要求するとともに、以下の疑問点について回答することを求めます。
第一に、卓越大に申請・認定されたならば、財政的な安定と自律を獲得できると考えられる根拠をご説明ください。
総長メッセージでは国立大学の基盤的経費たる運営費交付金が、法人化以来12%以上削減されてきた上に、「単年度」予算であるために使途が限定されるという問題を指摘し、卓越大に認定されて助成金を獲得できたならば財政的にも安定して自律できるという見通しを述べました。
運営費交付金の削減は、確かに深刻な問題です。しかも、2019年度に大学単位での傾斜配分の割合が拡大されたために、次年度以降の予算の見通しがつけにくくなっています。湊学長が理事(副会長)を務める国立大学協会においても、運営費交付金の拡充と、その一部を共通指標に基づき傾斜配分する仕組みの見直しを求める要望書を文科大臣宛に提出しています。京都大学の総長としてなすべきことは、国立大学、さらに日本における大学全体の研究力底上げのために、この要求を実現させるためのリーダーシップをとることではないでしょうか。
卓越大に認定されれば、財政的安定を実現できるという見通しの根拠薄弱さも指摘しなくてはなりません。卓越大への助成金の原資は株式・債券市場の運用益である以上、助成額は毎年大きく変動せざるをえず、「単年度」性はいっそう顕著です。しかも、卓越大の助成金はさらなる外部資金の獲得、大学発ベンチャー企業への投資の呼び水となることなどを求められる点でいわば「ひも付き」であり、長期的見通しをもって任期の定めなき教職員の人件費にあてることは困難です。助成金の増加分以上の事業拡大が求められ、教職員、院生・学生がいっそう疲弊することが懸念されます。日本学術振興会特別研究員制度と並んで大学院生支援において重要な位置を占めている「次世代研究者挑戦的研究プログラム(Spring)」事業について、科学技術振興機構(JST)が卓越大に認定された大学はこの事業への申請資格を喪失するとしたことも、このような懸念を深めます。
第二に、総長メッセージでは、現状の「学系」制度を人事組織であると同時に研究組織とするデパートメント制度を採用し、「フレキシブル」な研究者の移動と研究連携を実現し、デパートメント・オフィスを通じてきめの細かな研究支援、研究資源の配布を可能とすると説明しました。なぜこうした改革が卓越大の申請にともなって行われねばならないのかをご説明ください。
湊総長の説明では、卓越大申請とデパートメント制採用との内在的連関が不明でした。卓越大の助成金をえられるから初めて可能なのだということでしたら、助成金のうちどの程度の金額を職員(事務職員のほかに技術職員や図書館職員を含む)の増員や常勤化のための経費にあてようとしているのか、その見通しを具体的に示してほしいと考えます。もしも職員にかかわる労働条件を改善するための具体的計画を伴わないのだとしたら、デパートメント単位で事務を集積したとしても、むしろ「きめの細かい支援」は困難となると考えられます。それぞれの専門分野ごとに必要なニーズは異なる以上、専門分野ごとに教職員と院生・学生が日常的に対面的な関係で交流することによってこそ効果的な研究支援が可能となるからです。文系共通事務や理系共通事務にもみられる事務作業の集積化の弊害も、すでに明らかになっています。教員の立場でも、既存の研究科や学部を残しながらデパートメント制を採用する計画は、研究科会議や学部教授会のほかに、新たな会議が増えるだけではないかという懸念を抱かざるをえません。「研究者に事務的な仕事がいかないようにする」という湊総長のメッセージは外部資金獲得のための書類作成などに追われている教員にとって魅力的なうたい文句ではありますが、それが羊頭狗肉に終わらない保障はありません。
第三に、総長メッセージでは各デパートメントからの意見や要望をエグゼクテブ・キャビネットが吸い上げるという図を示していますが、京都大学に新たに設置された運営方針会議についてはまったく言及していません。運営方針会議が国立大学法人京都大学の最高意思決定機関として極端にトップダウンな方式で部局の改廃などを進めてしまう可能性を排除できるのでしょうか?
2023年12月に「改正」された国立大学法人法では、運営方針会議の決議を必要とする事項は、「中期目標についての意見に関する事項」「中期計画の作成又は変更に関する事項」「予算の作成に関する事項」などに限定しています。ところが、2024年3月7日の内閣府総合科学技術・イノベーション会議有識者議員懇談会の資料「国際卓越研究大学に求められるガバナンス体制の方向性について」では、卓越大に申請・認定する場合には「体制強化計画」など運営方針会議の議決を「求めることとする」とされたほか、学長選考に際しても「体制強化計画の履行を担保する観点」から学長選考について意見を述べることができるものとするとされています。すなわち、卓越大への認定・申請は、法律に定める以上に運営方針会議に巨大な権限を付与し、学長に対する運営方針会議の監督権限を強化するものとなります。いったん卓越大に申請・認定されてしまったならば、総長の意向に反した「体制強化計画」が議決されて、総長はそれを履行しなくてはいけない事態すら懸念されます。国立大学が法人化された際に自由な財務管理と運営が可能になるといわれながら、政府の財政誘導により大学自治が決定的に損なわれてきた経緯を思い起こすならば、卓越大への認定が大学自治への最後の一撃となる懸念を抱かざるをえません。そうした懸念は杞憂であると考える根拠があるのでしたら、お示しください。