京大職組国際卓越研究大学反対声明

 京大職組は11月16日(水)に次のような声明を発しました。

↓ 221116京大職組国際卓越研究大学反対声明.pdf
http://files.kyodai-union.gr.jp/doc/seimei/221116_kokusaitakuetsu_seimei.pdf

 ご賛同いただける方は、下記のフォームから賛同者に名前を連ねてください。いただいたメッセージは、順次、HPで紹介させていただく予定です。

賛同投稿フォームを表示するhttps://forms.gle/DTLX1jeH9f8cgBAo7

以下、声明文のテキストです。

京大職組は国際卓越研究大学への応募について全学的な議論を求めます!
京都大学の研究・教育を不可逆的に破壊するリスクは小さくありません!

 岸田内閣は、今年5月、科学技術振興機構(JST)の運用する大学ファンドの運用益を「国際卓越研究大学」に配分する法律を成立させました。年末には文科省が「公募要領」を公開して申請の受付を開始し、2024年度から財政的支援を開始する予定です。政府説明では6校程度を認定してそれぞれ約500億円を配分するという見込み、これは京都大学の運営費交付金の総額に匹敵する金額です。法人執行部は応募する方向で10月11日に国際卓越研究大学構想検討委員会を立ち上げました。
 よりよい研究環境を整えるためにも、職員の安定した雇用を実現するためにも、学生の福利厚生を充実するためにも、お金が必要です。ですが、この円安、低成長の時代に「打ち出の小槌」があるはずもありません。わたしたち京大職組は、以下に記すような京都大学の研究・教育を不可逆的に破壊するリスクがある以上、申請に反対します。
 第一に、大学ファンドの年3%の収益率という目標は不確定性が大きく、「絵に描いた餅」になる恐れがあること。同じく「官製ファンド」である年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の場合、年1.7%の収益率が目標ですが、2022年度第1・第2四半期の収益率はマイナスでした(GPIF「2022年度の運用状況」)。それでも、GPIFは日経平均が1万円前後だった時期に投資を始めたので累積では黒字となりますが、大学ファンドの場合はGPIFや日銀によりすでに株価が吊り上げられた相場への新規参入なので前途多難です。現に今年4月から9月までの収益率はマイナス3.67%、1881億円の赤字ということです。債券は、日銀の緩和政策により超低金利が継続しています。頼みの綱は海外の株式・債券ですが、日米の金利差に由来する為替変動リスクを回避するためのコストがふくらまざるをえません。しかも、大学ファンドの元本10兆円のうち約9兆円は財政投融資、すなわち財投債(国債)を財源とした借金です。財投債の利払いを含めた諸経費を支払い、将来的な償還に備えて自己資本を厚くしながら、各大学に運用益を配分するのはきわめて困難です。
 第二に、国際卓越研究大学は、大学ファンドにかかわるリスクも大学に共有させる仕組みであること。認定された大学は年3%の事業規模成長を実現し、大学発ベンチャー企業への投資や大学独自基金の創出を通じて助成金を増殖させることが要求されます。大学への助成額は「外部資金獲得額に一定の係数を乗じた金額」とされるので、外部資金獲得競争から自由になれるわけではありません。むしろ大学ファンドの元本を安定化させるために、大学の自己財源から大学ファンドへの資金拠出(出えん)がすすめられます。元本が大きく毀損した場合、この出えんした資金が全額戻ってくるという保障はありません。認定された大学は、大学ファンドから一方的に恩恵を受けるのではなく、いわば「運命共同体」的な関係を築くことを求められるのです。
 第三に、認定された場合、「大学の自治」が根底から否定されること。いまだ法案として明文化されてはいませんが、法案の審議経過から明確なことは、現在の学長選考・監察会議と理事会の機能をあわせもつ「合議体」を新たに設置すること、その委員はすべて文科大臣の任命で、半数以上を学外者とすることです。この合議体は総長の選任・解任の権限をもつとされているので、総長選考にかかわる意向調査の結果を無視する恐れがあります。合議体は「教学(研究・教育)」にかかわる事項には介入しないとされていますが、「経営資源の配分」にかかわるという口実で部局改廃や部局人事に介入する可能性も否定されていません。その一方、リスクある事業に出資して巨額の赤字を出した場合、合議体委員に個人として経営責任を負わせることは想定していません。そのため、事業がうまくいかなかった場合の責任は研究・教育の現場にある者の努力不足、「自己責任」とされ、部局の改廃、教職員の待遇改悪、学生の授業料値上げにつながると予想せざるをえません。
 第四に、認定された大学はこれまで以上に産学官連携の推進を迫られ、研究・教育の囲い込みにより研究者の自律性、研究発表の自由、学生の学ぶ権利が損なわれる懸念があること。大学における研究は公開性・公共性を本質としているのに対して、企業は製品化のために機微な情報を囲い込む必要があります。軍事にかかわる技術については、国による囲い込みもこれに重なります。今年5月に成立した経済安全保障法では特許出願非公開制度を設け、内閣総理大臣が特定の技術を「保全指定」した場合には発明の開示禁止などの義務を課し、違反者に2年以下の懲役、あるいは100万円以下の罰金を科すことになりました。すでに京都大学でも大学院授業の一環としての企業訪問について留学生だけが一律に「安全保障上の理由で参加できない」とされる事態が生じています(『毎日新聞』2022年9月9日付)。学外者中心の合議体は、政財界の有力者が「経済安全保障」の観点から研究・教育の囲い込みを徹底するのに都合のよい仕組みなのです。
 国際卓越研究大学に認定されてからここに記したような問題点が明らかになったとしても、認定を取り下げる手続きは想定されていません。研究・教育の現場にある者の意向をふまえて合議体の委員を解任する道筋が担保されるのかも不透明です。「バスに乗り遅れるな!」とばかりにあわててバスに乗ったあとで行き先が間違っていたとわかったとしても、降りることはできないのです。そもそもこのバスは国際的競争力を失った産業界の立て直しのためにつくられたものであり、「大学の自治」「学問の自由」は産学官連携の推進を邪魔するブレーキとしかみなされていません。
 わたしたち京大職組は、国が高等教育にかかわる自らの責任を果たすために運営費交付金を拡充することこそ活気ある研究と教育を取り戻し、安定した労働環境を実現するために必要という立場から国際卓越研究大学への申請に反対し、教職員と学生を含む全学的な議論の場を設けることを法人執行部に対して要求します。

 

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