2023年度 中央執行委員長 ミツヨ・ワダ・マルシアーノ(文学研究科 教授

2023年度、中央執行委員長を務めますワダ・マルシアーノと申します。文学研究科で映画・メディア文化を教えており、2017年から開設された国際文化越境という大学院プログラムの専攻長を勤めています。今年一年間、中央執行委員長としてできるだけの貢献をしたいと思いますので、どうぞ宜しくお願いいたします。
 委員長のポジションは一年間と決まっており、この短い期間にできることは限られているわけですが、歴代の組合委員長や執行部が提案し、取り組んできた未解決な案件を継承し、さらに良い方向へむかうことが大切だと思います。また、今まで見逃されてきたこと、あるいは新たに問題化された案件に光をあて、学生及び教職員全員に伝え知らせることも重要な仕事だと思っています。さて、どういった「未解決な案件」がわれわれの暮らしの中にあるのでしょうか。

 2021年度の中央執行委員長だった文学部支部の大河内泰樹氏は、就任の挨拶の中で、現在の京都大学における働く環境について二つの重要な指摘をしました。[1]まず、大学に存在する数々の組織が自立性を持つことは不可欠でありながらも、同時にそういった組織形態が労働環境の不透明さを作り出している点です。つまり、それぞれの学部で働く教職員が、他学部で同じように働いている教職員の待遇や境遇がどうなっているのか、あるいはどんな問題を抱えているのか、知るすべがないというのが現状です。[2]もう一点は、大学の法人化後、つぎはぎ的に数々の職種・雇用形態が導入され、主に職員の働き方が非常に細分化されてきた点です。こういった職種・雇用形態の複雑化が、先に記した「労働環境の不透明さ」を益々先鋭化させているわけです。これらの案件は、これからの一年間も引き続き大学本部側と交渉していかなくてはならないテーマだと思います。
 大学が法人化され、すでに20年の歳月が過ぎ去りました。国立大学法人法成立時に京都大学総長であった故・長尾真氏は所感の中で、以下のような記述を残しています。
 「言うまでもなく、法人化は目的ではなく大学を良くしてゆくための手段である。これは大学の自主性・自律性を発揮するための制度的枠組であり、運用次第で大学は良くもなり悪くもなる。(中略)京都大学の場合、大学の自主性をより良く確保する努力をすることによって、これまでよりも一段と京都大学の理念の実現に向けて力強く進んでゆくことができるようになるだろうし、またそうしなければならない。」 果たして私たちは、京都大学が大学の自主性・自律性を発揮しながらより良い大学を築いていると胸を張って次世代に言えるでしょうか。私たち全教職員及び学生たちが目標とするのは、文科省を含めた国からの指示に単に従う大学ではなく、「京都大学」としての自主性や自律性を前景化させて行くことなのではないでしょうか。
 2022年度の中央執行委員長であった理学部支部の林重彦氏は、彼の就任挨拶の中で、こういった京都大学の現状に対し、「合理性を理解するのも困難な決定がなされ、結果の検証もないまま突き進んでいく事例が増えてきていると感じられる」と記述しています。大学本部からの「理解が困難な決定」に対し、また「結果の検証が存在しない」現状に対し、われわれは大学本部側に、理解ができるまで説明をして頂くことを要求する必要があるのだと思います。それを要求するのは、他ならぬ京都大学に属している学生、職員、教員たちであり、そういった大勢の声を集約するのが「職員組合」の役割だと私は考えます。組合に関してまだまだ熟知しているわけではなく、まさしく力不足であることを自覚しているわけですが、私のような人々の質問が浮上し、そして話し合われる場である組合を大切にしていきたいと思っています。

長尾真、「京都大学の法人化についての総長所感」
https://www.kyoto-u.ac.jp/uni_int/01_sou/no23/shokan01.htm
 (2023年8月31日アクセス)。